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時事総合研究所委託編集 コメントライナー

2020年3月23日 (月)

映画「ナバロンの要塞」と主要国が総力を挙げて取り組むコロナ大不況 2020・3・21 (第1004回)

映画「ナバロンの要塞」と主要国が総力を挙げて取り組むコロナ大不況 2020・3・21 (第1004回)

 

 冒険映画のランキングを付けたらナンバーワンの傑作。スリルと娯楽性が同居したアリステア・マクリーンの原作を、リー・J・トンプスン監督がグレゴリー・ペック始めオールスターで映画化した。

 

 第二次大戦中の秘話。エーゲ海の島にドイツ軍の要塞があり、巨大な2門の大砲が設置されている。この破壊のため派遣される決死隊6人の物語だ。

 

 この作戦の立案者の将軍が言う。

「戦争には奇跡がつきものだ。狂気の中では人間は異常な能力を示すことがある。平和な時にそれを発揮できないのは残念だ」。

 

 現在の世界はコロナ肺炎への全面戦争と言っていいだろう。信用不安と不況突入ヘ、かなり対策は打たれている。しかし問題はこの病気の伝播範囲と期間なので、一般には不安感、恐怖感の方が強くなってしまう。

 

 ニューヨーク・タイムズ(3月13日)は、米疾病対策センター(CDC)による感染拡大の予測を発表。「最悪のケース」として、米国で1億6000万~2億1400万人が感染、うち20~170万人が死亡。しかも入院を必要とする感染者は240万~2100万人と予測。病床は92万5000床しかなく、地域社会で散発的に感染が発生する場合、1年以上こうした状況が続く、と予測した。

 

 世界ではどうだろうか。ハーバード大学公衆衛生大学院の研究チームが3月4日発表した報告書によると世界人口の2割から6割、14億から43億人が感染する可能性があると言っている。

 

 株式市場では、マスク、抗菌製品、検査キットなどの供給不足で関連企業群を物色する動きが活発だ。しかしマスク不足は明白だが、WHOが効果については解疑的な指摘したこともあり、メーカーは(一部を除いて)増産にはしり込みしているのが実情といわれる。前回の新型インフルエンザ流行時に増産したが、その後大量返品で苦しんだ体験からだろう。

 

 マスクよりも開発の時間や経費のかかる治療薬の方がもっと大変に違いない。ほかの病気の治療薬が転用されるケースが多くなる。また根本的な治療薬であるワクチンはなお販売に至る前の手続きなど、手間も時間もかかる。やはり完全に落ち着くには、1年以上、と見るのが常識だろう。

 

 なぜこんな分かり切ったくどくどと書いているか。それは新型ウィルスの感染が当初よりも、長期化し、大型化することが、次第に「見えて」きたことによる。全力を挙げての対策が必要だ。

 

 私の主張をまとめてみると、次の通りだ。

  1. ウイルスの完全封じ込めは1,2年かかる公算が、大きい。
  2. 日本でも世界でもコロナ不況により企業と家計の収入が激減しており、恐らく瞬間風速でGDPの成長率は大幅なダウンが必至。業界によっては数10%も売り上げが落ちている。大不況だ。
  3. 日本の場合、補正予算を使った通常の景気対策と現金給付で何とかしようとしている。しかしこれに加えて実質無利子、無担保融資を数十兆円規模で準備し、早急に企業や家計に支援するべきである。
  4. 日銀はイールド・カーブコントロール政策の採用で、資金供給が年80兆円ベースから、半分になっている。これを早急に原状復帰させないと、企業は内部留保を取り崩して、金融環境がタイトになり「悪い金利上昇」が発生する懸念がある。
  5. 財源が常に問題になる。財務省の悪宣伝のためである。IMFが2018年10月に発表した報告書「財政モニター」によると、公的バランスに関する指標では、日本はわずかながらマイナス。つまり「先進国中最大の借金額」というのはウソ。 
  6. 真の解決策は、建設(投資)国債の超長期国債を発行する。日銀と政府とのアコードが必要だが、日銀が全額引き受ける。

 

以上が固まれば、我が国はコロナ肺炎に断固とした財政政策を示したとみられる。特に近年の大型台風への対策が不十分だったことは、著しく外国人機関投資家の対日投資の足を引っ張った。

 

世界がデフレに突入しかけ出ている折も折。日本が、少子化、老齢化などの先進国として、財源を確保することはよき先例となるだろう。米国も超長期債発行を検討していると聞く。チャンスではないか。

 

戦前の高橋財政の例から不安を言う向きもあろう。しかし、戦前の軍部のような圧力団体は、我が国では現在どこにも存在しない。従って、私の主張は3年かせいぜい5年の期間限定の措置にすれば良い。国土強靭化計画に合わせれば、名目として十分だ。

 

 映画のセリフから。主役のマロリー大尉は目的が見事に達成された時に言う。「実はこんなうまく行くとは思っていなかった」。断行するには勇気が必要。勇断を望みたい。

2019年1月15日 (火)

第6625号【臨時増刊】 2019年1月15日(火) 「アップル・ショック」はまだまだ続く

6596号 2018年11月28日(水)

◎「アップル・ショック」はまだまだ続く

 国際エコノミスト 今井 澂

 

◆ 「ダウ2万ドル割れも予想」を

 「株価を大変気にする大統領だが、お気の毒だね。ダウ平均2万ドル割れも我々は予想してる」と、あるヘッジファンド運用担当者。アップル、アマゾン、マイクロソフトをはじめとするIT・ハイテク企業をカラ売り対象として、昨年10月以来の下げ相場で大当たりした。

 売った理由は?と聞くと、業績の急低下が2019年から2020年にかけて続くから、という。昨年104日のペンス副大統領の演説によって開戦宣言された「新冷戦」下で、中国市場の急激な悪化が必至と予想。その後グローバルなハイテク企業の売り銘柄が情報サービス会社から提供され、すべて20%以上も下落した、とご満悦だった。

 たしかに米中貿易戦争が激化し、グローバルなハイテクビジネスの売上高の伸び率は昨年、年率30%から10%へと急落した。理由の一つに中国人民解放軍工作員によるハッキングのため製品に埋め込まれた「泥棒チップ」がある。アップルとアマゾンのプラットフォームの中国下請け工場で仕込まれたらしい。当然、グローバルな生産ネットワークは再編成を余儀なくされている。

 

◆ アップルの赤字転落説も

 生産面での阻害要因だけではない。急成長してきたハイテク製品のスマホにも、需要面でブレーキがかかりつつある。関連企業の経営者に聞くと「世界のスマホ市場は15億台の年間販売で頭打ちとなり、機能も成熟化、買い替えサイクルが長期化している」。

 とくに昨年秋に発表されたアップルの新機種スマホは、その前年発表の新機種に比べ、1カ月後の販売水準が30%下回った。なかでも中国市場では、飲食店などがファーウェイ(華為技術)利用に料金を割り引くという反米ムードもあり、下落率は大きいといわれる。

 前述のファンドマネジャーは、最悪のケースだがと断って、アップルは2019年に赤字決算もありうる、とした。現に世界最大手のクオンツ運用ファンドも昨秋以来、一斉に売りを開始したとか。この運用担当者は、現在のアップル大株主の大手投信も持ち株を減少させる筈、と予言する。つまりヘッジファンドの一部は「アップル・ショック」は今後とも続く、と見ているわけだ。

 

◆ 日本の関連企業にも影響大

 問題は米中のハイテク覇権争いが今後何年も続くことだ。現在ワシントンでささやかれている噂は「米国の誇る空母11隻が中国のドローンのカミカゼ攻撃によって無力化される」危険性だ。ドローン攻撃は昨年初頭に米海軍が100機で成功させた。その技術を前記の泥棒チップによるハッキングで中国が盗み、6月ごろ119機を使って実験。人工衛星情報でこれを知った米軍部は激怒した。これが昨年10月のペンス演説の背景にあったという。

 アップル減産の影響は大きい。部品供給と組み立て受託生産企業群によるネットワークを広く構築しているからだ。米企業はもちろん、心臓部のMPUは台湾のTSMC、有機EL・液晶パネルは韓国サムスン電子。日本でも村田製作所、TDK、アルプス電気、日東電工など。日米とも最近の株価は急落後リバウンドしているが、今後の動向はとても楽観できるものではない。

監修:内外情勢調査会   委託編集:時事総合研究所

2018年11月28日 (水)

第6596号 2018年11月28日(水) 米中冷戦 ハイテク規制で新段階へ

6596号 2018年11月28日(水)

◎米中冷戦 ハイテク規制で新段階へ

国際エコノミスト 今井 澂

◆ 「チャイナ・イニシアチブ」を発表

 米国の対中ハイテク輸出規制が着々と進んでいる。司法省は11月1日、中国のハイテク技術窃盗行為に対する対応措置のガイドラインを発表。セッションズ司法長官(当時)はこれを「チャイナ・イニシアチブ」と名付け、大学内でのスパイ行為も含めて徹底摘発する意図を明確にした。

 司法省はこれに先立つ10月30日にも、サイバー攻撃により航空機のエンジン技術を盗み出そうとしたとして、江蘇省国家安全庁の職員とハッカーら10人を起訴した。また、連邦大陪審が半導体メーカーの福建省晋華集成電路を起訴している。米マイクロン・テクノロジー者から半導体技術を窃取したとされる。さらにトランプ政権は、日本、ドイツ、イタリアなど同盟国に中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の製品を使わないよう説得工作を開始した、とウォール・ストリート・ジャーナル紙が報じた。これら同盟国には米軍基地があり、通信傍受などスパイ行為につながる恐れがあるからだ。中国に対する本格的な強硬姿勢を、さらに一歩進めたことは明白である。

 

◆ 新COCOM形成まで突き進むか

晋華集成電路の場合、米輸出管理規制(EAR)に基づき、「米国の安全保障が脅かされた」として、同社に対する米国製部品の輸出規制も発表された。アップルのiPhoneを中国で製造せず、米国に工場を戻せという政策意図が見える。ハイテク製品の対中全面禁輸という極めて強い規制を、現在共和、民主両党で準備中と伝えられる。1949年から1994年のCOCOM(ココム=対共産圏輸出統制委員会)21世紀版ともいえるものだ。民主党の方がより強硬な内容だが、貿易制裁に始まった米中対立に、知的財産権、サイバー攻撃、さらに人権問題や北朝鮮非核化まで含めることで両党は一致している。新COCOM成立となれば、米ハイテク企業の生産ネットワークの全面再編成はもとより、我が国の電子部品メーカーにも影響が出ること必至である。

 

◆ 強硬派ペンス副大統領との溝

 ワシントンでは現在、農業州の離反を招きたくないトランプ大統領と対中強硬派のペンス副大統領との溝が取りざたされている。ニューヨーク・タイムズなど多くの新聞は、今回の中間選挙後、トランプが「2020年の大統領選でも副大統領候補として一緒に戦ってほしい」と依頼したが、ペンスは答えをはぐらかしたと報じている。

 

 つれて想起されるのは、トランプ本人の地位の安定度に対する不安だ。第一に、下院で委員長ポストを握った民主党が長男トランプ・ジュニア、女婿クシュナー、長女イバンカらを委員会に喚問、場合によっては大統領も出席して何かボロが出るかもしれないという不安。第二が特別検察官によるロシア疑惑調査の進展、第三は米国憲法修正第25条第4節のいわゆる「合法的クーデター」で、閣僚と議会が認めた主要機関トップの過半数が合意した場合、直ちに副大統領が取って代わることが出来る、という規定だ。よく言われる弾劾は上院が共和党多数のため不可能なので、この副大統領交代説が現実味を帯びる。年内に途方もないニュースが飛び出すのだろうか。それとも米中冷戦が続く間は「戦争司令官」として大統領の地位は安泰なのか。当分、米政界から目が離せない状態が続く。

監修:内外情勢調査会   委託編集:時事総合研究所