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時事総合研究所委託編集 コメントライナー

2016年3月 4日 (金)

2016年 日本経済の展望

「日経トップリーダー」経営者クラブから出版された『トップの情報CD』に、「2014年日本経済の展望」というテーマでインタビューが収録されました。

2016年3月号
2016年1月号その1
2016年1月号その2
2016年1月号その3
2016年1月号その4
2015年11月号
2015年9月号
2015年7月号
2015年5月号
2015年3月号
2015年1月号その1
2015年1月号その2
2015年1月号その3
2015年1月号その4
2014年11月号
2014年9月号
2014年7月号
2014年5月号
2014年3月号
2014年1月号その1
2014年1月号その2
2014年1月号その3
2013年11月号
2013年9月号
2013年7月号
2013年4月号
2013年2月号
2013年1月号その1
2013年1月号その2
2013年1月号その3
2013年1月号その4
2012年12月号
2012年10月号
2012年8月号
2012年6月号
2012年4月号
2012年2月号
2011年12月号
2011年10月号
2011年8月号
2011年6月号
2011年4月号
2011年2月号
2010年12月号
2010年10月号
2010年8月号

2014年9月 4日 (木)

「選択」2014年9月号オバマ弾劾

「選択」2014年9月号

オバマ「弾劾」の現実味

「ベンガジゲート」暴落に備える投機筋

今井澂

 

 「オバマ政権は弾劾問題が大きな騒ぎになればなるほど選挙に有利と、誤認しているんじゃないの?確かにモニカ・ルインスキー問題でクリントンが弾劾された時、98年の支持率は上昇したし、下院議席を五つ増やした。しかし今回はリビア領事を含め四人が死んでいるんだぜ。」

 7月下旬になってミシェル大統領夫人を皮切りにホワイトハウスが一斉に弾劾の恐怖を吹聴し始めた。これに対し共和党が支配する下院は、ベイナー議長にオバマ大統領の憲法侵害で最高裁に提訴する権限を与える決議を、7月30日に可決した。

 この決議に先立って同議長は「共和党には弾劾計画はなく、この説は中間選挙で勝つための“汚い手口”」だ」と述べた。しかし選挙後、共和党が多数を占めれば弾劾が始まるのは必至、と見られている。

 株価の方は7月31日に300ドルを超える下落があった。その後のNYダウは上昇する日はあっても翌日はすぐ下がる、という弱気相場の様相を濃くしている。

 「大手の機関投資家は今やここ数年で最高のキャッシュ・ポジションを持っている。またジョージ・ソロスは売り方オプションを7倍に増やした。ニクソン辞任のウオーターゲート事件を覚えている投資家はみんな一斉に逃げ腰になっている。もちろん11月4日の中間選挙で下院だけでなく上院も共和党の多数を占めることが前提だがね」

 ある大手ヘッジファンドの運用担当者はこう打ち明ける。中間選挙で6議席共和党が取れば過半になるが、選挙のプロの予想は「支持率50%以下の大統領の中間選挙は“必ず負ける”」。ウォール街での賭け率は8対1で11月下旬から弾劾が表面化する」。米CNNの8月下旬の世論調査では米国民の33%が「オバマ大統領の弾劾裁判に賛成しており、クリントン時代の29%を上回った。

 仮に弾劾裁判が上院で開始となれば、ウォーターゲート事件のように「騒がれているうちは株価は売られる日が多くなり、辞任となれば30%は下がった」記憶がよみがえる。共和党支持者の57%は当たり前だが民主党支持者でも13%が弾劾賛成というから事態は容易でない。

 では、何が弾劾の理由なのか。

 「一つは2012年9月11日のベンガジゲート。第二が現在問題化している違法移民への恩赦問題で、どちらもきわめて重要だ」。順序立てて説明しよう。

 ベンガジはリビアの東部の大都市で2012年に駐リビア米国領事を含む四人がアルカイダにロケット弾で殺害された。

 ところが11月に再選を狙っていたオバマ政権は、前年5月にビン・ラディン殺害に成功しアルカイダの脅威は去ったと宣伝していた。このため公式には「ユーチューブに掲載された反イスラム映画への抗議活動が暴徒化し、領事館が襲われた」とした。この虚偽の報告はオバマ大統領が当時のヒラリー・クリントン国務長官に命令して行われた。これがウォーターゲート事件と共通しているためベンガジゲートと呼ばれている。この事件の情報公開が裁判所命令で行われ、下院に5月から特別委員会が設置されていた。

 折も折、6月に「血の確執」という本が発売されNYタイムスのノンフィクション部門のベストセラーになった。これはヒラリー・クリントンの主要スタッフからの取材を中心とした本。内容を見ると、領事館襲撃は18時間前に予告され、事件後犯行声明も出ている。また当時デモはなかったし、領事館から再三にわたり警備強化が求めていたのが無視された。また虚偽の報告公表の大統領による強制も書かれている。ヒラリーの反対にもかかわらず、である。

 これでは特別委員会もスタッフやヒラリー・クリントン前国務長官を証人として喚問せざるを得ない。

 なぜヒラリーがこの本の出版を容認したのか。それは2012年にオバマが2016年の大統領選にヒラリーを応援すると約束していたのを反古にしたからだ。「確執」という題の所以だ。

 オバマ政権が叩かれる背景はこれだけではない。

 米内国歳入庁(IRS)が保守系の政治団体に対し税審査を故意に厳格化していた問題、退役軍人の医療が公表されている水準より著しく劣る問題(VA)、さらに司法当局がAP通信社の通話記録を秘密裏に入手していた問題。すべてここ3,4か月の間に表面化し、これらが「オバマは戦後最低の大統領」という評価につながっている。

 しかし、ベンガジゲートと並ぶ最大の問題は違法移民に対する恩赦問題だ。

 ホンデュラス、グアテマラ、エルサルバドルなど中央アメリカからメキシコ経由で違法に米国に入国する未成年者が急増している。14~17歳の子供で「コヨーテ」と呼ばれる運び屋が入国させ、昨年まで年7000人程度だったが今年すでに6万人。母子で入国する移民も今年4万人。母国でギャングに追われていると言えば強制送還を免れる。

 オバマ政権はこれらの未成年、母子を一時的に国境付近の収容所に入れている。その後バスで親族のいる街に送られるが、いない場合は全国各地の学校や軍事基地や教会にバラまかれる。役所からフードスタンプ(生活保護)のプリペイドカードをもらって食料を買って過ごす。

 問題は地元の政治家や住民たちには一切通告なしで強行していることだ。

 これまでは違法移民はメキシコと国境を接する州の問題だったが、このオバマ政権の強硬姿勢で全米の問題となった。ギャラップの世論調査によると、不法移民を米国の政治経済の大きな問題とする意見は5月には3%だったが8月には15%で第2位にはねあがった。ちなみに第一位は「ワシントンの政治」である。

 どうして大統領令ひとつでこんなムチャなことがまかり通っているのか。ゾーニング法で住居、商業などの地域に一昨年、人種の均等化条項が入ったのが曲者で、連邦法が優先されるので州などは口をはさめない。

 民主党としてはラティーノ(中南米系の米国民)の政治団体は同党支持だから違法移民の増加は好ましい。米国には1100万人の違法移民がいるが、オバマ大統領は「人道的な見地」から500万人を恩赦して居住権を与えることを検討している。また7月14日には「オバマケアに加入した違法移民には恩赦が与えられる」という新規定を発表した。これらの一連のオバマ政権の姿勢を憲法違反として下院議長に提訴権限を与えたのが前記した7月30日の決議なのである。

 カギになる中間選挙だが、共和党が下院で議席を増やして多数を維持し、上院でも多数党に返り咲く、と選挙専門家や大学の有権者調査が予想している。

 すでにモンタナ、サウスダコタ、ウエストバージニア州で民主党の議席が奪われるのは確実。両党が互角に戦っている「トス・アップ」州が6,7州あり、そのうち三州とれば、共和党が過半になる。

 「オレたち運用担当者は①S&Pの売りオプションを買う②ユーロを売る③ジャンク・ボンドを売る。日本株?ワシントンの政治混乱は世界中どこでも地政学リスクが起こるということから、あんまりやりたくないね。現金を増やしておくのがいいのはわかってるんだが、それではクライアントに高いリターンを差し上げられないしね。つらい時期だな。いけそうな成長小型株を探すしかないね」

2014年8月 9日 (土)

2014年8月号「選択」 オバマ暴落とQEⅢ

選択」2014年8月号原稿

NY市場「オバマ暴落」近しーQEⅢ終了で弾けるバブルー

今井澂

 「何しろオバマは戦後最悪、最低の大統領と、世論が、今や大声で言い出した。国内問題でも国際的問題でも、米国現政権が何もできないと、どんな事件が勃発するかわかったもんじゃない。そこに1987年のブラックマンデー級の下げがあれば、まあ世の中は“オバマ暴落”と呼ぶだろうね。」

 問題は「いつバブルが破裂するのか」だけだというこの人は有力ヘッジファンドの運用担当者。

これまでの運用成績は?と聞くと「実は市場平均に負けた」。

 半分以上の大手ヘッジファンドは年前半、運用に失敗している。大寒波による米国経済の躓き、ウクライナなど悪材料続出にもかかわらず、シェールガス革命の影響や米国企業の積極的な自社株買い、それにもちろんQEⅢによる充分は資金供給の寄与がNYダウは1万7000ドル、S&P500は2000ポイント寸前まで上昇した。売り中心のファンドに利益が出るはずがない。

 しかし、早ければこの8月が転機になり、上昇相場に変調が来る。こう見て手ぐすね引いている投機筋は多い。

 理由の第一は、例えば有力な市場のオピニオン。リーダーの弱気転換。たとえばPIMCOの債券王ビル・グロス氏で7月初めには米国株はバブルではない、と主張していたが、7月下旬に「10月末に予定されるQE3」の終了が、8月に株式市場の波乱を引き起こすかもしれない」とした。

 またゴールドマン・サックスもほぼ同時に大手顧客へのレターで「現時点のNYかアブは30から40%割高。2014年末のS&P500の目標値をこれまでの2050から1900に引き下げる」と述べた。

 さらにイエール大学のロバート・シラー教授は過去10年のPER平均の17倍の適正地に比べて、独自の算出方法で現時点は26倍。バブルの判定25倍を上回っている」と警告した。

 従前から暴落を主張し続けてきた著名投資家マーク・ファーバー氏の「(11日で25%も下落した1987年のブラック・マンデーを上回る」としている。氏は破滅博士(ドクター・ドゥーム)と呼ばれている弱気筋の代表格だが「過去2年間NY株はほぼ1本調子上昇を続け、11%を超える大きな調整はなかった。次の下げは極めて悲惨なものになる」とCNBCで述べた。

 そのきっかけは、やはりオバマ政権の無力化が引き起こす国内外の問題点。原油価格上昇も、と。

 第二の「変調」予測の背景は、何といってもQEⅢの終了時期が迫っていることだ。

 8月下旬には避暑地ジャクソンホールにFRBを含め世界の中央銀行総裁会議があり、当然イエレンFRB議長も記者会見を行う。また9月にはFOMCが開催され10月のテイパリング終了に向けて地ならしが始まる。これで当初850億ドル、現在350億ドルの債券の購入は10月にはゼロになる。

 もちろんイエレン議長が、市場にネガティブな結果を導くとは考えられない。これまでの株価上昇はFRBは米国経済の順調な拡大を見極めてからテイパリング後の展開を行うだろうという市場の信頼感があった。イエレン議長の方も自分のハト派的なイメージに乗ったソフトな説明を続けている。

 「それでもテイパリング完了、利上げ見当が始まれば、FRBは市場から流動性の吸収が必要。利上げの効果が出ないからね。」

 たしかにこのファンドマネジャーの言う通り、恐らく来年にはFRBは利上げの前に民間金融機関がFRBに亜づけている2兆6000億ドルもの超過準備を吸い上げる。いわば「金欠」の受胎にしないと利上げは出来ない。

 では一気に巨額な流動性吸い上げのため、FRBが自分で保有する国債や資産担保証券を市場に売却できるか。出来はしない。長期金利は急伸、株価は暴落し影響が大きすぎる。

 資産を徐々に減らし、超過準備が余り減らせない中で利上げが可能な方法が、ひそかにFRB内部で三つ検討されている。「まあ三つ併用でも開始されれば株安だがね。発動は9月か10月が最も早い線だろう」。

 その三つの第一はリバース・レポ。市場の資金を吸い上げるためFRBが保有する債権を市場に貸し出す。これだと長期金利の上昇への影響は極めて軽度。これにターム・デポという第二の方法を併用する。

 これは現在民間金融機関がFRBに当座預金(金利ゼロ)の形で預けられている準備預金を定期預金(金利は付く)にしてすぐに引き出せないようにする。この方法の難点はFRBの民間金融機関への利益供与といった批判が出やすいこと。従って付与する金利に制限がつく。

 この二つに合わせて第三の方法が取られる。それは「逆ツイスト・オペ」。これまでfrbは短期国債を売却して長期国債を買うツイスト・オペを推進しておりFRBの手持債券は満期の長いものに偏っているので、平準化をはかる。

 「FRBはこの三つの手法で利上げをはかる。さもないと景気拡大で銀行は巨大な準備預金を貸し出しに回し、結局インフレ再燃につながる」と別のFEDウオッチャーが言う。

 しかし、ヘッジファンドの運用担当者が手ぐすね引いているのは、やはり市場の混乱必至と見ているからだ。

 現在NY市場は金融緩和が行き過ぎTも過度のリスクテックが一部で起きている。これはFR備エレン議長も警告している通りだ。

 本来なら質的に不安のあるジャンク・ボンドや、つい先年まで財政危機で金利が急騰していた南欧諸国の国債が明らかにバブルと言われても仕方ないほどの低水準にある。もちろん株式市場でも同じでNYダウが新高値を更新しているのは周知の事実である。

 にもかかわらず市場のボラティリティ指数VIXは市場がリスクに対する恐怖心をどの程度持っているかを示すものだが、」リーマン・ショック直前のいわばバブル期並みに低下している。その前提は、長期間ゼロ金利つまり超金融緩和が続くという市場の確信だ。それがQEⅢの終了時期接近で揺らぐ瞬間、NY株式市場は「オバマ暴落」を起こすだろう。これが投機筋の、これまた「確信」である。

 筆者がワシントンでのある情報筋に聞いたところでは「オバマ大統領が内政、外交にわたり“漂流”し始めたとする見方が広まっている。レトリックと政治的得点優先で、現実的でなく賢明でもない。6月には大手大学の「オバマ氏は戦後最悪の大統領」という世論調査が出た。

 主要政策別にみると不支持率が支持率より高い。外交は不支持率57%支持率37%、経済55%・40%、医療保険58%・40%、テロ対策51%・40%である。何かのきっかけで株式市場が政治不信を織り込み始めるかもしれない。

 NYダウの下げはどの程度だろうか。前記したゴールドマン・サックスは少なくとも30%を示唆している。時期だけが問題、というべきか。

2013年12月30日 (月)

医薬経済2014年1月号

医薬経済20141月号

少数派経済観測(121)

 

米国がサウジ以上の産油国に

―ドル高・円安は長期的に続くー

 最近、これは大ニュースだな、と直感した報道があった。1213日のウォール・ストリート・ジャーナルが「エクソン・モービルがある法律の改正に動き出した」というのである。

 その法律とは「米国からの原油の輸出については原則として禁止する」というもの。しかもエクソン・モービルとは石油業界を作り上げたロックフェラーのスタンダード・オイル・ニュージャージーを基とする米国最大の企業である。

 何で?と私は考えた。エクソン・モービルは米国内に油田を持っているが、外国に輸出できるほどの余力はほとんどない。それなのに、なぜ?

 エクソン・モービルは、自社以外の米国内の石油会社全体を束ねる役目も果たしている。この改正への働きかけは業界全体の要望と考えていい。

 米国国内の産出の石油は国内需要を満たしていない。米国の経常収支が年4000億ドルを超える大幅赤字で、その三分の二がエネルギーの輸入超過である。

 だからこそ米国は中近東への関与を重視し続けてきたのはご存じの通りだ。

 それなのに、世界の石油輸出市場でサウジと米国がぶつかり合う?そんなことがあるのか?

      米国東海岸巨大油田説

 私は20133月に訪米してニューヨークでヘッジファンドの運用担当者に、オバマ政権がブッシュ政権時に実施したあるモラトリアム(禁止)を解除する、と聞かされた。

 その禁止とは米国の大西洋側の海底の油田開発。当時の環境重視の世論で決まった、という。

 このモラトリアムを第二期に入ったオバマ政権は失業問題の解決とエネルギーの独立を狙って解消することを決めた。

 すでに20131月の一般教書で「ありとあらゆるエネルギーソースの開発」と述べている。

 そしてその運用担当者から、すでに地質、地形などの基礎データはもう鉱山局で調査が進んでおり、あとは具体的な油層の人工地震による調査だけ。そして「もうサウジ並みの超巨大油田であることはワカっている」と聞いた。

 それでもまだ環境派議員たちの反対がある。NYで私は8名の議員の連名のオバマ大統領へのレターのコピーをもらった。「人工地震では爆薬を使うのでイルカが死んでしまう。生態系を壊すべきでない」というもの。

 ただこれは一応おれたちは反対したといういわばアリバイづくりで、現在すでに人工地震波超音波で行うのが常識。「年の後半には進展があるだろう」と。

 10月中旬に入り、近くの海に海底油田があるとされる七つの州のうちまずヴァージニア州で世論調査があり、67%の州民が賛成した。

 デラウエアからフロリダまで残る六つの州も世論調査が進行中。

 オバマ政権は「2014年早々に海底油田開発の権利を5年間リース契約でゆだねる方針を発表することになろう」。と米国石油連盟は発表している。

 発表文を見ると「米国の石油産業は米国GDPの8%を占める巨大産業で980万人の雇用を生んでいる」とある。

 これを見るとナゾが解ける。11月中旬からエクソンの株価が急騰し、サウジは国連安保理の議席を蹴り、ドル価値は上昇し、NYダウ平均は新高値を更新した。

 どくに円ドル関係では、シカゴ通貨市場での先物の円売りドル買いの枚数は、23か月前は6万枚だったのが1119日に11万枚、26日に12万枚、126日に13万枚を超えた。

 もちろん円売りの先物はいずれ買い戻さなくてはならないし、株価も一高一低あるだろう。

 しかし、米ドルとNYダウがきわめて大きな好材料に恵まれたことは間違いない。シェールガス革命と合わせて、米国は第二の覇権時代に入っているのではないか。

選択2014年1月号

「選択」20141月号原稿

日本株に群がる投機筋

―あげ調子の市況に浴びせる「冷や水」-

「何しろあの弱気で鳴るマーク・ファーバー博士でさえ、NY株はこれから20%は上がってからバブル破裂で下げと予測した位市場は強気」。

 FRBイエレン新議長が「株価収益率や長期金利などから見てNY株式市場はバブルではない」とご託宣を下した。少しオーバーヴァリュ―ではないかと考えていた運用担当者もひたすら買い一本になるのは当然だろう。

 新高値更新が続くNY株式市場。運用担当者としては、何か腕を見せたいのだが、現実には取り立てて何もない状況だ。

 多少ある懸念材料は後述するとして、「NYでなく東京株式市場に、短期で大幅な株価下落を仕掛けて“売り”で利益を上げて見せないと、プロとしての能力を問われる」という不穏な発言も一部の投機筋にあるのは見逃せない。

 「日本株の売り仕掛けならもう“実績”がある」とうそぶく某大手ヘッジファンドマネジャーは2013523日の急落を例に挙げる。

 当時1300円、400円上昇が続いていた日経平均は、その日、先物価格で瞬間16000円を付けた後、なんと2000円も下げた。

 当時の一日あたり売買金額4兆円の市場に先物の大量売り6兆円が出たのだから、まあしかたのない下げだった。これでオプションの買いがもうかり、先物の売りでまた儲かった。その後613日の12445円まで2割も日経平均は下落している。

 この日はFRBバーナンキ議長が記者会見で、進行中の量的金融緩和「QEⅢ」の終了を示唆する発言があったため、とりあえず一番利益が出て売買量も大きい東京株式市場が狙われた。

 これほどの影響力の大きな悪材料が再びどこかで出れば、それを契機に、売りで利益を上げるヘッジファンドのマネジャーが腕の見せ所を示すことになる。

 では、どうして売り崩しが大きな値幅になるのか。それは東京株式市場に構造的欠陥があるからだ。

 まず日経平均225種が単純平均で一部の値嵩株の変動で大きく変動するのが第一。

 たとえばファーストリティリングは日経平均の10%を占め、市場全体が上昇してもこの銘柄を売り崩せばば日経平均を下落にすることも可能。「ソフトバンクやファナックを加えればなお簡単」と市場関係者は言う。

 また株式の需給関係でも、東京株式市場は外国人の思うがままだ。

 かつてのバブル期1988年には銀行と生保の政策投資が発行済み株式の54%を占めてこの分が凍結されていた。少ない金額で思うが儘に上昇相場がつくれたが、現在はわずか8%。

 外国人の毎日の売買量は市場の70%を占める。其れでもバーゼル規制やソルベンシーマージンで日本の銀行と生保はまだ売却が続く。

 特にひどいのは先物取引だ。毎朝現物の取引の前に先物の売買が始まりその日の「場味」が決められる。

 この先物市場では日経平均でもTOPIXでも、主に王銀系証券が日系証券とひとケタ違う売買量で市場を支配している。

 「それでも、円安ドル高が続いているのだし、懸念された国債金利の上昇も阻止されている。NY株はあげつづけているし、ティパリングが始まればドル高ではないか」というのが今の日本の常識だろう。

 しかし、肝心の円安があまりアテにならない。TPP交渉がまだ完了していない現在では、米国議会筋に動かされたオバマ政権要人が円レートについて、一言牽制球を投げたたら、そこで円安は終わってしまう。

 たしかにシカゴ通貨先物市場では円売りの数量が巨大化しつつある。

 つい23か月前、円売りは6万枚、多いときでも10万枚は行かなかった。

 それが11月下旬から11万、12万と増加し12月中旬で13万枚前後に達した。ここ10年間で最高水準である。

 先物売りだからこの円売り玉は先行き必ず買い戻される。その時に円レートは1時的にせよ円高へ。その時に「株価と連動させるのは簡単さ」とある事情通は言う。

      NY株は好調持続

 ただ前述の日本株売り仕掛け論のマネジャーも「売られても短期間で、下げ幅はせいぜいい10~15%」という。理由は「黒田日銀が市場でETFを買って来るし、NY株が順調。其れに安倍政権の長期化を読んだアベノミクス関連株への米国年金、基金買い。さらにNY株の上昇」を挙げた。

 NY株式市場でバブル論議が活発なことは方々で報じられている。

 バブル説の代表は著名投資家のカール・アイカーン氏で「量的緩和と低金利に支えられている企業利益をベースにした株価は大いに警戒されるべき水準。暴落の可能性も」と警告している。

 一方著名投資家のウオーレン・バフェット氏は適正水準説。「割高な水準ではないことは明瞭。しかしもちろん私は割安だとは考えていないが」と述べている。

 とはいえ2014年予想利益でのS&P500種の株価収益率14倍台で、バブルというにはほど遠い。

 しかもシェール革命の米国経済への好影響はどんどん拡大している。

 米国エネルギー情報局(EIA)の2014年みとうしによると米国天然ガス生産量は2040年まで56%増産され、併産されるシェールオイルは2021年と予想されるピーク時に日量480万バレル、昨年予想の280万バレルから大きく上昇した。

 つれて米国はエネルギー政策を転換。これまで①米国内の原油は近く枯渇②中東産油国の政情不安、から戦略的備富と米国からの原油輸出禁止を決めていた。

 備蓄についてモニツ米国エネルギー庁長官が見直すべき、と発言し、原油輸出は米国石油業界を代表してエクソン・モービルが禁止撤廃を提唱し始めた。エナジー・インデペンデンスがオバマ政権の次の大目標になりつつある。

 米国貿易収支の三分の二はエネルギー輸入の赤字。これが解消されるなら、ドル高と株高。これに噂される東海岸巨大海底油田の開発が加われば、失業者も急減すること必至だし税収増で財政収支も好転。要するにいいことづくめだ。

 となると時間の経過とともにオバマ民主党政権には有利な材料が増え、秋の中間選挙では共和党不利。そこでオバマケアに絡んでまたゴタゴタを起こしたい。年初にワシントンで再び騒ぎが起きるだろう。しかし米国経済そのものの好転は変わるまい。

 「それでもNY株の方は良いかもしれないが日本国債の方は?」

 「カイル・バスだろう?彼のファンドの運用成績はもうメタメタのはずで、誰も言うことは聞かないよ」。

 従来のバスの主張は「日本の少子高齢化、累積政府債務の増加。これで円安が始まると輸入物価上昇とスタグフレーションを合わせた悪性インフレが発生する」として1ドル350円を予想していた。最近は中国との関係悪化を悪材料にしている。

 しかし5月に瞬間1%に近い水準に急騰した日本国債10年もの金利は、0・6%台で落ち着いている。黒田日銀がこの低水準の長期金利を維持できれば、前記の売り仕掛けの打撃はごく軽いもので済む。現実にはどう展開してゆくのか。楽観は許されない。

2013年5月 5日 (日)

米国株式市場に「変調」の兆し(選択2013年5月号)

選択 2013年5月号

NY株式市場に変調の兆し

 「やはり例年のとうり5月は恐ろしい月だね。」。どう考えても大量売りが出そうだから」。

 理由は?と聞くと大手ヘッジファンドの運用担当者は「投資作戦の読み違えで巨大損失を出したファンドがきわめて多い」ことを指摘する。」恐らく解約が第二・四半期末に出るが、その解約の締め切りが5月15日なので、手元にキャッシュを作っておかなくてはならない。」たまたまNYダウ平均は2007年10月の高値を抜いて高水準なので、売りが多くなる、というわけだ。

 その投資戦略の失敗とは①2,3月頃にNYダウは新値を抜かないとみて先物を売る②一方、金、原油などは商品買い、という作戦が、両方ともウラ目に出たことだ。おおざっぱに言って有力ヘッジファンドの四分の一が今回は「負け組」になったといわれている。

 まず株の方は「NYダウは2007年10月の1万4190ドル寸前で10~15%下げる」と読む投資担当者は2,3月頃結構多かった。実体経済の回復がさほど出なかった上財政赤字の削減が成長率を押し下げる。またチャートからも売りを示唆する動きが読めたことも、先物売りが多かった理由である。

 「結局シェールガス革命の効果を過小評価したのだろう」と前記のヘッジファンド運用担当者に言う。また黒田日銀の異次元緩和でリスクマネーが追加されたことも、NYダウの新高値更新を支えた。このため売り方の運用成績はガタ落ち、解約を恐れなければならない状況にある。

 「まあそれ以上に直接の打撃が多いのがSACだ。昨年末から4月まで運用資産の30%以上が流出しているんだ」。SACは昨年まで「最も成功したヘッジファンド」として定評があり、創立者スティーブ・コーエン氏は昨年の個人所得13億ドルでこの業界第3位だ。運用資産も昨年末で150億ドルでこれまたベスト5に入る。

 ところが去る3月、元運用担当者がインサイダー取引で米証券取り委員会(SEC)が摘発し、結局6億1400万ドルという空前の和解金を支払った。信用失墜は言うまでもない。

 摘発されたインサイダー事犯は2件。SACグループのうち2社が、一つはアルツハイマー症薬の臨床実験不調の情報、もう一つはパソコン大手デルの決算内容の発表前の把握で、市場ではコーエン氏にも追求が及ぶか、とも観測されている。SAC側はもちろん組織としての犯意は否認しているが、過去20年間年率30%もの投資収益を上げてきた実績への信頼が揺らいでいることは事実だ。

 ともかく、5月には「負け組」ヘッジファンドによる解約に備えた売りと、これを見越した利益確定売りが出て、一時的とはいえNY株式市場にかなり大幅な下げが出る、-これがかなり広く信じられている。

 具合の悪いことに5月19日に米国連邦政府債務が上限に達する。共和党は歳出削減をオバマ政権に迫っており、この債務上限を交渉材料に利用しようとしている。 2011年8月に債務上限引き上げ問題がこじれて、米国債の格下げが発生、月4日に1日512ドル、翌日小反発したものの週明け8日に634ドルもの暴落が発生した。

 この経験があるので、第二の格下げショック不安が材料となり、それが5月に起きるというシナリオが信じられ始めている。

      金や商品の暴落の意味は

 もっとも弱気な向きは短期間だが10%程度の株価下落。それは新高値を付ける背景になった好材料には、同時に株安要因が潜んでいることだ。

 たとえばシェールガス革命。これは①貿易収支の改善②失業率低下③法人税増収による財政収支好転、といいことづくめ。進展とともに米国経済は成長が高まる。

 難点はある。ダウ採用銘柄30種のうち20以上が海外部門の利益への比重が高いので、ドル高は企業収益ダウンと株安につながること。

 それでも来年にかけてNYダウは1万7000ドルと見る向きが多いのは、このページでも紹介したことのある米国東海底超巨大油田説だ。

 コネチカット州からフロリダ州に至る海底は開発が禁止されていたが、オバマ政権は探査の開始を決めている。すでに地形やな地質どのノウハウが豊富な米国では「すごい埋蔵量だ」との前評判が高い。下半期に正式な探査が開始されるが、サウジを上回るだろうといわれており、「エナジー・インデペンデンス」(外国に頼らないエネルギー独立)が期待されている。最近環境重視派議員8名が開発反対の手紙をオバマ大統領に出したが、前評判の高さを裏書きした形だ。

 このほか米国製造業復活の切り札になるといわれている3Dプリンタ技術もある。これはコンピュータで立体的に印刷のように安価で部品を作れるというもので、政府と産業界がオハイオ州に研究機構を設立、当初は軍事用として開発され、結果としては民生用という技術の確立を狙っている。

 住宅市場が回復し、サブプライムの痛手も消えた。TPP交渉で日本が関税引き下げのメリットを放棄したので自動車大手は市場の回復も享受できる。だからこそ最新のFOMC議事録で2013年末までに量的緩和縮小を支持する意見が顕著になってきた、と報じられた。つい先ごろまで、出口戦略発動は2014年と見られていたので、「ドル安時代は終わった」との見方が強まる。

 金が暴落を始めたのが、ドル信認の高まりを物語る。4月12日から2営業日で金価格はドルベースで10%下落した。

 これに先立ったゴールドマン・サックス社は3月末、金価格はオンス1200ドルまで下降するというレポートを出していたが、予想は的中しかけている。暴落が始まる前は1550~1600ドルのゾーンにいたが、4月12日に63ドル安の1501ドル、週明け15日に140ドル安の1361ドル、16日に1320ドルまで下げた。

 「金価格は通貨への不信任指数」という常識からすると、ドルへの信認が急速に進行したことになる。2011年に1904ドルの史上最高値を付けたが、その後じわじわと米国経済の強さをおりこんでいることになる。

 材料としては①金需要の半分を占める中国とインドの景気減速②インフレ懸念の後退などがあり、これに加えてキプロス中銀の保有金売却(4億ユーロ)の売却懸念があった。しかし根本はドルへの評価の上昇だろう。これが結局NY株高につながることは言うまでもないが、その前の「魔物の住む5月」をどうしのぐか。

 

シェール革命で恩恵を受ける日本企業は(先見経済13年5月号)

先見経済2013年5月号

シェール革命で恩恵を受ける日本企業は

 このコラムで私は何べんもシェールガスによる革命の巨大なこと、産出しているアメリが利益を得るのはもちろんだが、日本も相当にプラスになることを主張してきた。

 円安が引き金になって株高。買い気が出てきた株式市場では早くも「シェール関連」銘柄が動き出した。イマイ先生、教えてくださいとリクエストがずいぶん来ている。

 私は推奨ではないが(というのは随分上がって目先は限界で一休みと思うので)、6,7月に予想される押し目買いで3年持続という条件で、注目される株を挙げよう。

 まずLNG運搬船。世界で現在359隻運行されているが、2014年にパナマ運河拡張工事が完成するし、14万立方米級のLNG運搬船が60~70隻、120~140億ドルの需要が生まれる。円安だし、造船業界は韓国に奪われた新造船市場を取り戻す大チャンスだ。三井造船、川崎重工、三菱重工など。注目は冷蔵するタンク用の6センチのアルミ厚板の古河スカイ。大増産中だ。売上比重は軽いが収益性は高い。

 ガスを液化して運搬し気化するわけだが、このプラントは世界の80%を住友精密、30%を神戸製鋼が握っている。これらは本当に業績が急向上するのは2015年3月期。だから少なくとも2年は持つこと。

 私が困っているのは新日鉄住金だ。これまでのデフレと円高の悪循環は原料を安く購入できるメリットがあった。これが円安でコスト負担は増す。しかしシェールガスは2~3000米掘削してガスとシェールオイル、LNGを地表に上げて来るか、この地圧に耐える鋼管は旧住金和歌山しかつくれない。差引少しプラスの方が多いかも。

 三菱重工、日立、東芝なども私は判断に迷っている。私が聞いたところでは安倍政権は100万キロワット級のシェールガス火力発電所を何と80基作り、日本列島全体にシェールガスのパイプラインをつくる。発電所の方は間違いなくタービンや重電機メーカーを大きく潤す。ただ図体が大きいから、業績への影響度は少ない。まあそれでもこの種の材料は部品や素材の矢や意外性のある中小型株が大化けするのが常なので、勉強したい。

 LNG基地が八戸、福井県若狭、秋田県由利本庄など続々手を挙げているが、恐らくトクをするのは荏原。コンプレッサーが強い。

 このコラムで以前述べた千代田化工、日揮、巴工業、新東工業、太陽日酸、丸一鋼管、みんな期待先行で株価は上昇済みだ。押し目を待ちたい。大手商社の三井物産、三菱商事、住友商事、伊藤忠商事はそれほど上がっていないが、これはシェールガスが格安でせっかくの権益が利益を出せていないためだろう。

 私は米国での安価なエネルギーに注目している。米国のシェールガスの価格は百万BTU当たり最近4ドル(6倍すると原油価格の水準になる)、日本は19ドル、アジア他国は16ドル程度。だからたとえばクラレ。機能性樹脂ポバールで世界の35%を占めるトップだがテキサス州に工場を新設し20%増産する。

 また信越化学は米国子会社シンテックは塩化ビニールで首位だが原料値下がりで収益力は強化される。株価は少々急騰しすぎたので、やはり押し目待ち。逆に東レは炭素繊維の米国での50%増設待ち。シェールガスの圧力容器は巨大市場なので、3年後に期待は十分だ。

 夢としては燃料電池自動車。シェールガスからは高純度の水素が取れるので、トヨタが2015年に発売するのに私は期待している。

2013年3月 2日 (土)

先見経済2013年3月1日号「やはりシェールガス革命は時代をー」

先見経済 経済最前線 NO.85 2013年3月号

やはりシェールガス革命は時代を変える

 昨年年末に「シェールガス革命で復活するアメリカと日本」を出版した。自費出版で関係筋にお送りし、お手元に届いた日が1月7日。ちょうど同日にNHKがスペシャルで報道、関心が高まったせいもあり、第一刷はアッという間になくなってしまった。

このページで私が何回も主張した通り、この「100年に一度」のエネルギー革命の影響は途方もなく大きい。ようやく、世間様がそのことに気が付き始めたらしい。日経ヴェリタスは「シェールの世紀」という特集をしたし、大手銀行の調査部もマクロ分析を中心に分厚いレポートを出し始めている。私に言わせるとだいぶ遅いが。

 最近は「シェール革命」と「ガス」を省略することが多くなったが、米国経済に与える影響がまず注目される。

 貿易収支がまず劇的に改善する。米国の貿易赤字は2011年で5599億ドルで、原油の輸入金額は4393億ドル。8割が主に中東からの原油による赤字だ。

 ついでに言うと米国の中東依存度が下がるにつれて世界の情勢も変わりそうだ。

 また米中の関係も。中国はこれまで「米国の国債を買うのを止めたり売却する」と米国を脅していた。しかし今後、米国の優位が再確認されそうだ。

 貿易収支だけでなく、シェールガス関連ビジネスからの税収で財政収支も改善。さらにまだ7・9%の失業率もシンクタンクの予想では、5%台になると見込まれている。

 すでにガスを産出するテキサス州で6・6%、ノースダコタ州は3・1%の失業率と低い。全米にこれが拡大してゆく。

 これだと米国の「日本化」の不安どころか、ドル高と米国債発行水準の切り下げで、米国の長期繁栄が見込めるという予想が定着する。

 となると「今後10数年で中国は米国に並ぶ大国になり、21世紀は中国の世紀になる」という見方は変わる。世界帝国の再生というと前漢と後漢とかローマと神聖ローマ帝国のように米国も第二の繁栄期を迎えることになる。

 この見方はオーバーだろうか。エネルギーの転換が時代を変えてしまうのは歴史が証明する。

 19世紀に木炭から石炭に熱源が変わり蒸気機関をつくった英国は、産業革命で世界の工場になり七つの海を制覇した。石炭炊きの戦艦が当時の最高のハイテク製品で、全世界に鉄道が普及、巨大産業を形成した。

 20世紀に入ると米国で石油が発見され、ガソリンで自動車、重油で火力発電という現在の文明が形成された。自動車産業やハイウエイ建設が米国の経済成長を支えた。また戦後の冷戦時代は中東の原油が西ドイツと日本の高度成長を支えた。

 今回のシェールガス革命も、恐らく石油からガスへの熱源の転換で、たとえばガス自動車などの新製品、新産業を生むだろう。しかもIEAによると天然ガスの採掘、輸送のインフラ投資だけで世界で8兆6770億ドルの投資が2035年までに行われる。巨大投資が世界経済の活況につながる。

 米国内ではざっと2割にあたる1兆7700億ドルのインフラ投資が行われる。2030年には石油に代わり天然ガスが最も使用される燃料になるとIEAは予測している。

 今の日本はアベノミクスを好感した円安株高でムードは一転している。円安ということはドル高。そのドルがシェールガス革命で今後強くなってゆく。私がこのページで円安が大幅で長期にわたると予想したとき、反響はへえ?という感じだったが、今回も私の勝ちだ。

医薬経済2013年3月1日号「中国経済は危機寸前」

医薬経済 2013年3月号

中国経済は危機寸前

 2012年、中国経済は前年比7・8%成長を遂げ、2013年は8・2%へ伸び率は上昇する。これが先般発表されたIMFの予測で、大多数のエコノミストやマスコミはこの見方に立っている。

 私はへそ曲がりの少数派なので、実際はゼロ成長だったのでは、と考えている。

 ご説明しよう。3月に温家宝氏に代って国務総理になる李克強が今から年前に北京駐在の米国大使に「私は中国のGDP統計は信用しない」と述べた。理由は「あれは各地方自治体の報告を合計しただけ。地方の首長は自分の党中央による評価を悪くしたくないからいい数字しか出ない」。

 では、どんな数字を信用したらいいのか、とトーマス米大使が聞くと「鉄道貨物の輸送トン数。各路線からの報告なのでウソがない。」ほかには銀行からの中長期貸出と電力消費。」

 こんなマル秘がらみの発言は普通外部に漏れないものだが、例のウィキリークスで北京からの公電がバレてしまった。今では中国ウオッチャーがこの見方をとっている。

 この鉄道貨物輸送トン数が2月早々発表されたが、2012年1~12月で前年比マイナス0・9%。貸し出しも2,3年前の45%がひとケタとなり電力消費もマイナス。どう考えても7・8%成長などウソだ。

 恐らく胡錦鋳=温家宝政権が任期最終年に経済政策が失敗した、といわれるのを避けるため「大本営発表」をしたのだろう。

 現に中国主要企業の業績はかなり悪化している。売上高は昨年3・第四半期15%伸びているが、これは見せかけで、売掛金は45%も増加している。押し込み販売と顧客の支払い条件を緩やかにしているためだろう。

 当然、運転資金が必要になり、これが前記した貸し出し増の背景だが、私の調べたところではヤミ金融にも相当依存しているらしい。

 また景気に敏感な鉄鋼、セメント、石油化学製品など基礎資材は、過剰生産能力と需要低下で、操業率は60%以下といわれている。ところがこれらの業界の有力企業は国営なので、機動的な減産や業界再編成は行いにくい。そこで安値輸出で世界中にデフレをばらまいている。

 では中国企業で世界に羽ばたく有力成長企業が出ているかというと、最近の米国シンクタンクの調査では、国際競争力は「全くない」。

 たとえば世界一の通信機器メーカーの華為技術は、競争力の源泉は中国軍部との不透明な裏関係で技術開発力はない。またソーラーで世界最大手の尚徳太陽は、地元政商による強力な財政援助が成長の源で、現在は巨額な負債を抱え経営危機にある。

 中国最大手の自動車メーカー上汽集団も、VWやGMとの合弁ビジネスはうまくいっているが、30年経過した現在でも、ほとんど独自技術は持っていない。研究開発投資は年間売上高の0・1%で、日本勢の10%に比べて劣る。

 唯一の例外は有名な聯想集団(レノボ)で市場への対処の仕方が巧みだったのが成功の背景で技術面ではない。こうした出口なし、のところにジワリと世界の反中国ムードが重石になっている。

 日本に対する排日姿勢を契機に外資の流入は止まり。米国企業で逃げだすところも出てきた。日本だけが対中投資を増やしていたのを反日運動で排撃してしまったのだから、当然の結果である。

 もう紙数がなくなったが、不動産バブルの後始末はとてもとても、日本の91,2年のような状況だ。NY大学N・ルービニ教授の「2013年中国破綻説」は当たるかも知れない。

2013年1月14日 (月)

選択2013年1月号

選択 2013年1月号

 

迫り来る「オバマ暴落」

今井澂

 

 「いいかい。2007年10月1日のダウ平均の歴史的高値は1万4198ドル。今それに迫っている。新高値更新なら大相場。それこそ2万ドルとか3万ドルだろう。しかしその手前で下げが起きて、ダブルトップの形になると1万1000ドルで止まるかどうかという大幅な下げが起きる。暴落といっていい。びっくりする位の急落だろうな。2,3月だろう。」

 もうその準備に入っていて、ここ3か月ほどの間に米国内のリスク資産は株、商品先物などの投資額を半減させた―。大手のヘッジファンドのマネジャーは語る。理由はと聞くと「オバマ」。財政の崖か、と聞くと、それもあるが債務法定上限リスクと米国債の格下げだという。

 ブッシュ減税の廃止を中心とし富裕層を目の敵にした税負担増が、基本的に米国株や金などのリスク商品先物忌避につながっていると。

 ごく一例。最高税率は現行の35%から39・6%。とくに配当収入は現行の15%が最高44・6%になり、キャピタルゲインも同様。となると資産家がもうやめた、となるのも当然かもしれない。

 しかもオバマ大統領と共和党との財政の崖交渉は、本稿作成時の12月下旬現在まだ進展していない。両方とも自分の意見が正しいと信じているし、特に共和党の新選出議員は増税に賛成しないという誓約書にサインしている。妥協は難しく、株価が大幅に下げて騒ぎになってようやく合意形成となろう。1月中で終わるか2月になるか。

 「それよりも連邦債務の法定上限が問題」と前記のファンドマネジャーは言う。

 2011年8月にも、赤字国債の発行を可能にするために必要の連邦政府債務の法定上限引き上げを巡って、オバマ政権と共和党が対立。政府機能の停止や国債償還に問題が発生した。寸前に妥協が成立したが、米国国債の格下げが決まり世界中にショックを与えた。株価は2000ドル近く下げ1万ドルの大台割れも懸念された。

 今回はどうか。2012年11月末での債務残高は16兆3695億ドルで、上限の16兆4000億ドルに迫っている。現在月間1500億ドルの債務が増えているので昨年の年末で上限に到達していたはずである。

 歳出の先送りや財務省証券の発行などで、3か月程度は債務の増加は抑えることが出来る。しかし合意に至らないと、連邦政府の歳出は年間3兆5384億ドルだから、月間3000億ドルの支出の1割がカットされる。3月か4月の大騒ぎが予想される。

 しかも、上限引き上げが決まっても引き上げ幅と同額の財政赤字削減が必要。社会保障を中心とした歳出削減を主張する共和党と増税派の民主党と、具体策がなかなか決まらない事態が起きる公算きわめて大。となると米国債の格付け引き下げの懸念が起きて、リスクの高い投資は止めてしまう。ヘッジファンドのこの状態をすでに見越しているわけだ。15%は下がる、とも。

      投資先は日本だけ

 ヘッジファンド大手は「中国は絶対ダメ、欧州も下げ過ぎのリバウンドはあるかも知れないがこれも投資しない」という。理由は「両方ともマイナス成長だから」。

 ユーロはわかるが中国は7%台の成長では、と聞くと「あれはウソだ」。

 今回首相に決まった李克強が2007年に当時の駐中国米大使に「中国のGDP統計は人為のもので信頼できない。鉄道貨物輸送量、電力消費、銀行融資で成長も私は測定しており、一番重視するのが鉄道貨物輸送量だ」と述べた。(ウィキリークスの外交公電による)

 7~9月期中国の経済実質成長率は7・7%と公表されたが、鉄道貨物輸送量は同期間マイナス0・8%。リーマン・ショック直後以来のマイナスである。「恐らく胡錦鋳=温家宝政権が自分たちの経済運営の失敗をごまかすためにマクロ数字は粉飾したのだろう」。ちなみに電力消費も2%。銀行の中長期融資は2010、2011年の20%増がひとケタに落ち込んでいる。

 ユーロ圏のマイナス成長は周知のとおりだし、本誌でも「政治統合を目指すドイツは抜本的な解決まで参加国を締め付け続ける」と述べ続けてきた。ユーロ安でドイツだけは好調だが。

 となるとグローバルな投資を行う有力外国機関投資家特に米系ヘッジファンドが、どの地域に資金を投下したらよいかに悩む。

 グローバル投資のオピニオンリーダーであるジム・オニール氏は「円売り、日本株買い」を主張し運用担当者への重要な指針になっている。同氏はゴールドマン・サックス・アセットマネジメント会長で、BRICSという投資コンセプトの創始者として知られている。

 11月20日に同氏は「WE WANT ABE!」というレターを顧客に送り「これまで私は円高論者だったが円安に見方を変えた」としその後12月に入って「2~3年中に100円から120円の対ドルレート」を目標値に掲げた。安倍発言でのデフレ終了作戦の支持表明である。

 つれてシカゴ通貨市場での円先物への投機筋の大量売りと、日経平均の急騰が始まった。

 10月上旬までは円の買い(ロング)と売り(ショート)を比較すると円買いが定着していたが、下旬から売り玉が急増。差し引くと12月中旬現在11万枚(1兆3000億円)で、かって円キャリートレードが盛行していた時期の水準に達した。超低金利の円で資金を調達しその円を売って、ドルや新興国の株や債券で利ザヤを稼ぐのが円キャリートレードである。

 円レートは衆院解散時の79円台が84円台へ、また日経平均株価は8600円台から9500円台へ上伸した。筆者のところへは「日本の有力ストラテジストやエコノミストはこの動きをどう見ているか」と質問が入る。「一時的な仕掛けでまた円高。株安に揺れる」という意見が支配的」と返事すると、それならばと、また円売りを乗せる向きが多い。

 

 2月14日の日銀のバレンタイン・プレゼントつまり物価上昇の目途として初めて物価上昇プラス1%という数字を挙げたときは、ヘッジファンドは14週間続けて円を売り越した。今回は12月最終週でまだ9週間目であるが、前回よりも安倍政権誕生で期間は永く、投入資金量も大きいと推測する。

 ただし、年央以降の投機筋資金はNYダウの位置しだいであるが、米国回帰の公算が大きい。

 何といっても住宅市場の回復が明瞭になり、米国家計のバランスシート調整にもメドがつき始めた。シェールガス革命による製造業の本国回帰も始まっている。まだ「21世紀は中国の時代」という米国ダメ説は残っているが、再び世界最大のエネルギー生産国になる以上、一部で云われるNYダウ3万ドルが夢物語でなくなるかも知れない。