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2013年1月14日 (月)

選択2013年1月号

選択 2013年1月号

 

迫り来る「オバマ暴落」

今井澂

 

 「いいかい。2007年10月1日のダウ平均の歴史的高値は1万4198ドル。今それに迫っている。新高値更新なら大相場。それこそ2万ドルとか3万ドルだろう。しかしその手前で下げが起きて、ダブルトップの形になると1万1000ドルで止まるかどうかという大幅な下げが起きる。暴落といっていい。びっくりする位の急落だろうな。2,3月だろう。」

 もうその準備に入っていて、ここ3か月ほどの間に米国内のリスク資産は株、商品先物などの投資額を半減させた―。大手のヘッジファンドのマネジャーは語る。理由はと聞くと「オバマ」。財政の崖か、と聞くと、それもあるが債務法定上限リスクと米国債の格下げだという。

 ブッシュ減税の廃止を中心とし富裕層を目の敵にした税負担増が、基本的に米国株や金などのリスク商品先物忌避につながっていると。

 ごく一例。最高税率は現行の35%から39・6%。とくに配当収入は現行の15%が最高44・6%になり、キャピタルゲインも同様。となると資産家がもうやめた、となるのも当然かもしれない。

 しかもオバマ大統領と共和党との財政の崖交渉は、本稿作成時の12月下旬現在まだ進展していない。両方とも自分の意見が正しいと信じているし、特に共和党の新選出議員は増税に賛成しないという誓約書にサインしている。妥協は難しく、株価が大幅に下げて騒ぎになってようやく合意形成となろう。1月中で終わるか2月になるか。

 「それよりも連邦債務の法定上限が問題」と前記のファンドマネジャーは言う。

 2011年8月にも、赤字国債の発行を可能にするために必要の連邦政府債務の法定上限引き上げを巡って、オバマ政権と共和党が対立。政府機能の停止や国債償還に問題が発生した。寸前に妥協が成立したが、米国国債の格下げが決まり世界中にショックを与えた。株価は2000ドル近く下げ1万ドルの大台割れも懸念された。

 今回はどうか。2012年11月末での債務残高は16兆3695億ドルで、上限の16兆4000億ドルに迫っている。現在月間1500億ドルの債務が増えているので昨年の年末で上限に到達していたはずである。

 歳出の先送りや財務省証券の発行などで、3か月程度は債務の増加は抑えることが出来る。しかし合意に至らないと、連邦政府の歳出は年間3兆5384億ドルだから、月間3000億ドルの支出の1割がカットされる。3月か4月の大騒ぎが予想される。

 しかも、上限引き上げが決まっても引き上げ幅と同額の財政赤字削減が必要。社会保障を中心とした歳出削減を主張する共和党と増税派の民主党と、具体策がなかなか決まらない事態が起きる公算きわめて大。となると米国債の格付け引き下げの懸念が起きて、リスクの高い投資は止めてしまう。ヘッジファンドのこの状態をすでに見越しているわけだ。15%は下がる、とも。

      投資先は日本だけ

 ヘッジファンド大手は「中国は絶対ダメ、欧州も下げ過ぎのリバウンドはあるかも知れないがこれも投資しない」という。理由は「両方ともマイナス成長だから」。

 ユーロはわかるが中国は7%台の成長では、と聞くと「あれはウソだ」。

 今回首相に決まった李克強が2007年に当時の駐中国米大使に「中国のGDP統計は人為のもので信頼できない。鉄道貨物輸送量、電力消費、銀行融資で成長も私は測定しており、一番重視するのが鉄道貨物輸送量だ」と述べた。(ウィキリークスの外交公電による)

 7~9月期中国の経済実質成長率は7・7%と公表されたが、鉄道貨物輸送量は同期間マイナス0・8%。リーマン・ショック直後以来のマイナスである。「恐らく胡錦鋳=温家宝政権が自分たちの経済運営の失敗をごまかすためにマクロ数字は粉飾したのだろう」。ちなみに電力消費も2%。銀行の中長期融資は2010、2011年の20%増がひとケタに落ち込んでいる。

 ユーロ圏のマイナス成長は周知のとおりだし、本誌でも「政治統合を目指すドイツは抜本的な解決まで参加国を締め付け続ける」と述べ続けてきた。ユーロ安でドイツだけは好調だが。

 となるとグローバルな投資を行う有力外国機関投資家特に米系ヘッジファンドが、どの地域に資金を投下したらよいかに悩む。

 グローバル投資のオピニオンリーダーであるジム・オニール氏は「円売り、日本株買い」を主張し運用担当者への重要な指針になっている。同氏はゴールドマン・サックス・アセットマネジメント会長で、BRICSという投資コンセプトの創始者として知られている。

 11月20日に同氏は「WE WANT ABE!」というレターを顧客に送り「これまで私は円高論者だったが円安に見方を変えた」としその後12月に入って「2~3年中に100円から120円の対ドルレート」を目標値に掲げた。安倍発言でのデフレ終了作戦の支持表明である。

 つれてシカゴ通貨市場での円先物への投機筋の大量売りと、日経平均の急騰が始まった。

 10月上旬までは円の買い(ロング)と売り(ショート)を比較すると円買いが定着していたが、下旬から売り玉が急増。差し引くと12月中旬現在11万枚(1兆3000億円)で、かって円キャリートレードが盛行していた時期の水準に達した。超低金利の円で資金を調達しその円を売って、ドルや新興国の株や債券で利ザヤを稼ぐのが円キャリートレードである。

 円レートは衆院解散時の79円台が84円台へ、また日経平均株価は8600円台から9500円台へ上伸した。筆者のところへは「日本の有力ストラテジストやエコノミストはこの動きをどう見ているか」と質問が入る。「一時的な仕掛けでまた円高。株安に揺れる」という意見が支配的」と返事すると、それならばと、また円売りを乗せる向きが多い。

 

 2月14日の日銀のバレンタイン・プレゼントつまり物価上昇の目途として初めて物価上昇プラス1%という数字を挙げたときは、ヘッジファンドは14週間続けて円を売り越した。今回は12月最終週でまだ9週間目であるが、前回よりも安倍政権誕生で期間は永く、投入資金量も大きいと推測する。

 ただし、年央以降の投機筋資金はNYダウの位置しだいであるが、米国回帰の公算が大きい。

 何といっても住宅市場の回復が明瞭になり、米国家計のバランスシート調整にもメドがつき始めた。シェールガス革命による製造業の本国回帰も始まっている。まだ「21世紀は中国の時代」という米国ダメ説は残っているが、再び世界最大のエネルギー生産国になる以上、一部で云われるNYダウ3万ドルが夢物語でなくなるかも知れない。

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