シェールガス革命は日本にも好材料(先見経済2012年7月号)
先見経済 2012年7月号
経済最前線
シェールガス革命は日本の好材料
このページで私は何回も米国のシェールガス革命についてお伝えした。読者の方から、オマエは米国のことばかり言って、この日本がどうなるのかを書かないじゃないか、とお叱りをいただいた。ごもっともです。
この革命はもちろん米国が最大の受益者だが、日本も相当に利益を受ける。理由は次の通り。
① 政情が不安定な中東へのエネルギー依存が下げられる。2011年で原油の87%、石油ガスの88%は中東。ほとんどホルムズ海峡経由だ。これが政情安定している米国とカナダに変わることは大きな国益だ。
② 今の日本のデフレと不景気の根源は円高にある。国際通貨研究所の購買力平価による円ドルの妥当レートは次の通りでこの原稿を書いている6月下旬現在の79円よりはるかに円安だ。消費者物価129・63円、企業物価98・67円。つまり企業はもうからない輸出を強いられている。
ところが米国のシェールガス革命は貿易収支と財政収支と双子の赤字を大幅に減少させてドル高要因。時間はかかる。すぐというわけではないが、100円近辺までの円安は福音だ。
③ 米国、カナダから大量のシェールガスを輸入する流れができれば、輸入価格を安くすることができる。現在日本の天然ガス輸入はテイクオアペイ条件という長期契約。これは3か月ごとに石油価格に連動して決められる。天然ガスには石油のような成熟した国際市場がまだないので、我が国には不利な契約になっている。これが変わるのは大きい。現在は米国に比べて9倍もする天然ガスを輸入しているのだから。
④ 脱原発は日本の大問題だが、供給の不安定要因であると同時に価格面でも見通し難という難問だ。これが天然ガスシフトで一挙に解決する。
最新型のコンバインドサイクルという技術が日本にはあり、発電の効率を現在の40%弱から一挙に60%に上昇できる。再生可能エネルギーのエネルギーの利用より低コストで効率がいい。この最新鋭発電設備を米国向けに輸出し、代わりにシェールガスの利権を獲得する。条件はTPP加入だが、現在の日本の政治の変化ぶりから見て十分に可能性がある。
⑤ このページの読者からのリクエストにお応えして、日本の企業でシェールガス革命の恩恵を受けそうなところを列挙しておこう。
まず米国のシェールガス輸出関連。液化設備は日揮、千代田化工、それにLNG受け入れ基地の熱交換器設備で世界一の住友精密。さらにコンバインドサイクルでは三菱重工、川崎重工、日立、東芝といったあたり。それに三井物産、三菱商事、住友商事、伊藤忠と大手商社も忘れるわけにはいかない。
シェールガスを直接利用する企業も出てきた。クラレは米テキサス州に機能性樹脂ポバールの新工場を作る。同社はポバールで世界の35%を占めるトップだが20%の大増産に踏み切る。また信越化学の米子会社で塩化ビニールを作るシンテックも原料のガス獲得値下がりが寄与する。東レも炭素繊維の米国工場の設備を5割増設、天然ガスの圧力・容器用の需要が見込まれる。
呉羽も世界で唯一量産化に成功してPGA樹脂がシェールガス採掘に利用されるし、シェールガス用の遠心分離器の巴工業やパイプライン用交換の丸一鋼管もメリットが大きい。
「明」に対して「暗」もある。三菱ケミカルはエチレン生産の縮小に向かう。原料のコスト安で米国にかなわないと決断したためだ。グローバルな市場の変化は、今後様々な流れを生むこと必至だ。
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