映画「80日間世界一周」と日本企業の韓国進出(第579回)
ジュール・ヴェルヌの1873年の空想小説の映画化。1956年のアkデミー賞で作品賞など5部門を獲得した名作だ。
まだ航空機など夢物語の時代。主人公は英国紳士でクラブの友人と、80日間で世界一周できるかという賭けをして、自ら証明するため下男を連れて旅に出る。
気球、蒸気船、汽車、象など、あらゆる乗り物を使って時間との競争が始まる。
お話は単純だが世界の美しい景色と、カメオ出演の当時の大スター達が楽しく豪華な映画だった。ビクター・ヤングの音楽も美しい。
英国からパリ、スペインからスエズを通ってカルカッタ、上海、横浜、サンフランシスコ、NY。次から次へと忙しい旅。フラメンコ、闘牛、インディアンの列車襲撃など盛りだくさんなサービスつきだ。
主人公の気球がマルセイユに行くつもりが、何とスペインに降下したように、「世の中スンナリと行かない(映画のセリフ)」。
このところ、日本を代表する企業の海外特に韓国への脱出のニュースが目に付く。
昨年後半から財界首脳の韓国に対する見方が、大いに利用すべき、と変わったと聞いたが、やはり現実になってくるとショックだ。
たとえば東レ。最先端で最重要の炭素繊維の工場を韓国中部の亀尾に建設する。
同社日覚社長は「電気代、労務費、税金その他を考慮して世界一競争力のある工場ができると判断した」と。
元東洋経済編集長で私も親しくしていただいている大西良雄氏が、日韓両国の工場立地条件の差を調べている。並べてみれば格差の巨大さに唖然とする。
法人税 日本40・69、韓国24・20各%
産業用電力料金 15・8、5・8(米ドル換算で1キロワット時、単位セント)
最低月間賃金 1386、585ドル
このうち電力料金は引き上げが確実視されているし、計画停電のリスクもある。
何よりも大きいのはFTA化率だ。
大西さんは韓国が日本に先行してEUや米国と自由貿易協定を結んで、FTA比率は36・0%と日本の6・5%の倍以上。これでは東レが米ボーイングやエアバスに炭素繊維を輸出する場合、関税ゼロの韓国から輸出する方が有利だ。
東レだけではない。日本の得手で韓国が立ち遅れていた部品、製造装置でも韓国進出のニュースを聞く。東京エレクトロン、アルパック、それに系列色の薄い自動車部品など、韓国メーカーとの共同開発に乗り出し始めた。
こうしたコスト面での日韓差は、為替レートで決定的になる。
円レートはこのコラムで指摘したとおり、何かコトがあると切り上がる。対ドルではカネの緩和の率がFRBと日銀ではあまりに差がある。オウンゴールでもあるのだが。
一方韓国は北朝鮮が何かコトを起こすとウオン安になる。
野田首相は財務省在任当時、「韓国はウオンについていつも為替介入している。」と発言しG20で為替レート操作国と見なし、是正を求める発言をしたことがある。
また円高問題にも正面気って取り組んでいるのは好感が持てるが、円とウオンの格差はここ3年8ヶ月の間に53%も開いており、どうにもならないと危惧している。
結論。TPPに尻込みしないこと。法人税を含め前任二人の首相のようにアンチビジネスの立場をとらないこと。そうなれば前途に光明が見えて来るだろう。
映画では賭けの期限に遅れたと思っていたが、東へ東へと1周したので日付変更線を超え、一日もうけて賭けは主人公の勝ち。
規則がうるさい英国の社交クラブに主人公が、インド人の娘とメキシカンの下男を連れて来たので全員が叫ぶ。「もうお終いだ!」日本を終わりにしないよう野田内閣に努力してもらわなくては。
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