映画「人生、ここにあり」と円高に行方(第571回)
イタリアでは動員数40万人超。54週ロングランの大ヒット。たしかに面白い作品で、館内は笑いが絶えない。一見をおすすめする
。
本来なら重い、重いテーマだ。1983年、精神化病院が廃絶された。患者たちが一般社会で暮らせるように取り組んだある施設の物語だ。
廃材を使った寄木細工。色も形もさまざまな木片を使って、いわゆる正常なアタマから出ない発想から、ハイセンスで美しい細工を作り上げてゆく。
精神疾患を持つ人たちの性格描写が面白い。すぐ手を出すキレ男。カレを100人持つ妄想女・・・。大マジメでバク進型のリーダーは悪戦苦闘。そこで合言葉は「やればできる!」これが原題だ。
いまの世界の通貨はまるで精神病患者のよう。米ドルはデフォルトこそまぬがれたが世界中が、米国景気の前途がマックラか、それに近いことを了解してしまった。
ユーロのほうも容易じゃない。長期国債利回りを見るとー
ギリシャ27・6%、アイルランド11・7%、ポルトガル15・3%と破綻国の利回りはメチャクチャ。
瀬戸際のイタリア5・9%、スペイン6・1%と危機ラインの7%にもうチョイ。
これを見てもEUの金融危機が終わったどころかまだまだ、ということがわかる。
となると円。大震災という巨大な悪材料があり、財務省によると「次のギリシャ(プロの世界のファンドマネやーでこれを信じているものはいないが)」。
本来なら円安のはずだが、この原稿を書いている8月3日現在、3月17日の76円25銭に近い円高水準だ。
おかしいな、と誰でも思う。
しかし映画の精神病患者が、イタリアで言われる「誰でもどこかがオカシイけれども、必ず何かを持っている」ように、実は日銀の金融政策に円高の主因がある。しかもそのロジックが日銀独特のものだ。
ここは経済学の教科書をひくまでもない。円とドルとの関係で説明する。
8月2日、日銀が発表した7月の資金供給量(マネタリーベース、月中平均)は前年同月比15%増。
マネタリーベースとは、民間金融機関の手元資金量(日銀の当座預金残高、まあそういうもんだと思ってください)プラス市中に出回っている紙幣、コインの合計である。むずかしいが、これで為替レートはバッチリ当たる。
例のジョージ・ソロス氏が考え出して「ソロス・チャート」と呼ばれるチャートがある。
「3ヶ月前比で年率換算」という方法。ここに使ったチャートは三菱UFJモルガン・スタンレー証券 景気循環所長嶋中雄二さんの最近作成のものをお借りした。
これで見ると日銀の15%と米国のマネタリーベースの43%と差がひどすぎる。これが円高の真因だ。
為替レートの90%はこれで説明できる、と聞いた。
嶋中さんは「日銀が現座の金融資産購入規模(10兆円)を倍増(20兆円)して、固定金利オペ(30兆円)と合わせて50兆円の包括的金融緩和の規模へと追加緩和できる」ことが円高に歯止めをかけることが必要、と述べている。
カネを緩めるとすぐ日銀「はインフレになる」とオドす。しかし、大震災後のこの状況で、デフレの深刻化のほうがよほど私は心配だ。
映画の終わりに「いまイタリアに3万人に及ぶ“異なる能力を持つ人々”に働く場が提供されています」。要するにひとは使いよう、ということだ。金融政策も同じ。日銀の人たちがあまりにもインフレ恐怖症に陥っているのではないか、と気になる。デフレ脱出をもっと真剣に考えてほしい。
