先進国のリスクが高まっている
(東洋経済 株式ウィークリー 2011年8月29日号に掲載)
相場は重大な岐路に差し掛かった。マーケットを熟知する今井澂事務所代表の今井澂氏に今後の世界の相場について話を聞いた。(2回連載。次号では日本株の有望銘柄などについて掲載予定)
― 世界の株式相場の下落は止まったのでしょうか。
日本経済は復興に向け、懸命に頑張っています。しかし、世界の主要市場である米・欧・中国の地合いは悪い。結論から言えば9月~10月末にかけ、一段の危機が訪れる可能性があります。いま起きていることは2008年9月に起きたリーマンショックの後始末です。リーマン破綻時には、デリバティブ(金融派生商品)を中心に30兆ドルのマネーのうち、約半分が消えました。公的資金で一部問題は処理したものの、なお14兆~15兆ドルの一部で問題が残っています。より厳しいのはEU域内の複数の主要金融機関です。欧州には米国のTARP(不良資産救済プログラム)のような受け皿がなお不十分です。しかも米国にも住宅の不良債権問題を抱える金融機関がありますし、約3分の2に上る地方政府が困難な財政状況に置かれています。日本の失われた10年、15年が世界の先進国で起きるという、「日本化リスク」が高まっています。
―QE2(量的緩和第2弾)は米国経済浮揚に寄与したのですか。
デフレ対策としては一定の効果を上げました。また、資産家には株高→資産効果という恩恵がありました。しかしQE2は世界的な物価高も招き、中流階級以下にはマイナスが大きかったといえます。QE3(同第3弾、25日時点で未発表)がもし発動されても、効果は疑問ですし、財政刺激策も打ちづらい状況です。05年に続く「HIA2」(本国投資法第2弾、米国企業の海外での利益を米国内に戻す場合、法人所得税を大幅減税する)が実施されても、この資金は設備投資にはまわりにくいと思われます。
―中国がもう一度世界経済の牽引役になる楽観的なシナリオは?
あまり期待できません。リーマンショック時の中国のインフラ整備は世界経済を救いました。しかし無駄な投資が多く、4兆元のうち約半分は生産能力余剰の助長に使用されました。デフレ圧力が増した結果、日米欧での景気の一番底懸念シナリオリスクが顕在化しています。
―日本株は書き増益予想の企業も多く、割安感も指摘されます。
世界経済減速で、シナリオは崩れかかっています。主要国が日本化する結果、リスクを取ることに対する超過収益期待は下がり、「PERは1ケタではないと」と、投資尺度が変わる可能性があります。我々はいま「株価革命」の入り口に立っているのかもしれません。
(以下、次号)
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