ショパン「別れの曲」と円高、株安
ショパンの練習曲第3番ホ長調「別れの曲」。いっぺん聞くと忘れられない名曲。ショパン自身「これほど美しいメロディーを二度と見つけられないだろう」と述べた。
実は「別れの曲」の名は日本だけのもの。1935年に日本で公開されたショパンの伝記映画「別れの曲」のメーンのテーマ曲に使われたのでこの名が定着してしまった。私自身、外国人と音楽の話をしていて通用しなくて往生した記憶がある。
円が独歩高になって輸出メーカーはどこも苦労している。中国人民元は切り上げに慎重だし、ユーロはまだ不況の出口がつかめない。米ドルは経済見通しの下方修正が嫌気されているし。
どのくらい強いか。実質価値を示す日経通貨インデックスでは、7月下旬までの6カ月間でユーロは 7.9%、韓国ウォンは5.1%、米ドルは2.7%下降したが、円は5.7%上昇した。昨年末時点のIMF(国際通貨基金)の「為替レートと購買力平価比 率」を見ると、円は21%も割高で、人民元は46%割安、ウォンも同程度だった。それがまた差が開いた。輸出企業ならアホらしくてやってられるか、という 水準だ。
◇マネー供給を増やせ
「別れの曲」の名が世界で通用しないように、円高の理由も日本独自のものだ。
まずデフレと株安。低利でも元利払いが保証されている国債に国内貯蓄は回る。カネはビジネスや消費に回らず需要は減り、物価はさらに下がる。社会に閉塞感が広がる。
短命で弱体な政権は、財務官僚の財政均衡主義に縛られて積極財政はできず、日銀のインフレ懸念も打破 できない。この悪循環が始まったのは2007年6月の1ドル=122円の円安時から。株価も当時がピークでこの3年、理屈に合わない円高が進んでいる。本 来なら財政が安定し景況がよくなければ、その国の通貨は上がらないはずなのに。
今回の菅首相の消費税増税発言は、外国人投資家に格好の円買い投機の材料となった。世界の誰もが日本 はギリシャのようになるとは考えていないし、現に中国は、米国債購入を減らして日本国債を大量買いしている。人民元の弾力運用で企業の収益低下を懸念して いる中国指導部は、円レートを切り上げさせて人民元の競争力低下を和らげる作戦だ。
唯一の円安政策は日銀がマネーの供給を増やして、円が金融市場から海外に流れるというルートだ。そうでないと景気の急速な悪化が発生し、2番底の懸念が現実化するだろう。
映画のセリフから。「男はつらいよ」シリーズ12作「私の寅さん」のラストで聞こえてくる音楽。岸恵 子のマドンナに寅さんが聞く。「あれはなんという音楽ですか」「別れの曲」「やっぱり旅人(たびにん)の曲でございましょうね」「そうかもしれないわ ね」。忘れられない名場面だ。寅さんのように、放浪の終わりに柴又に帰れればいいが、円高の行方は見当がつかない。